食べた後に嘔吐のある方は、歯科的な問題も大きく、ひんぱんに歯科に通わなくてはいけなかったり、20歳代ですべて入れ歯になってしまったりすることもあります。
一番大きい歯科疾患としては、酸蝕(さんしょく)症(細菌の関与がない酸による化学的な歯質の溶解)があげられます。胃液が口腔内に逆流することで歯が溶け出してしまい、知覚過敏や冷水痛がみられ、重症になると噛み合わせ時の痛みを生じたり歯が折れたりする(破折)ことのある病気です。またコーラの飲み過ぎに代表される病態では、酸蝕症にう歯(むし歯)も重なり、歯の破折が一層早くすすんでしまいます。
このような歯科的問題を防ぐには、嘔吐を減らす・なくすことがもちろん重要です。もしも嘔吐をしてしまったら、少しでも歯への影響を減らすために、口腔内が酸性の状態のまま歯磨き粉(多くは研磨剤が入っている)で歯磨きをしない(歯がすり減ってしまい、さらに酸蝕症を進めてしまう)などの注意が必要です。
このため摂食障害の患者さんの歯科治療は患者さんごとの食習慣(症状)を考えて、治療・予防をしていくことが大切です。特に嘔吐がある場合はできるだけ歯を削らずに歯を守っていくことも必要になります。日本では摂食障害に特化した歯科外来はありませんでしたが、2023年4月、日本歯科大学附属病院(東京都千代田区)に摂食障害患者さんの歯科外来が本邦で初めて開設されました。近隣にお住まいの方で、歯科でお困りのことがありましたら、ご相談下さい。
- 嘔吐直後の歯磨きは避けましょう。
- 嘔吐後は酸を含まない洗浄液で口をすすぎましょう。
- 嘔吐後1時間以上たってから、フッ素を含み、知覚過敏を和らげる歯磨き粉で1日2~3回歯と歯肉をブラッシングしましょう。
- 酸性の飲み物(フルーツジュース、炭酸飲料など)を減らしましょう。特に就寝直前にとるのはやめましょう。酸性の飲み物を飲む時はストローを使用して飲みましょう。
- 砂糖を含まないガムを噛みましょう。
- 定期的に歯科を受診しましょう。(少なくとも年2回)
National Institute for Health and Care Excellence. CG9 Eating disorders: Core interventions in the treatment of anorexia nervosa, bulimia nervosa and related eating disorders. 2004.(リンク)